Bluelight Sonata

2026-03-28

荻窪を覗くとき

つぶやき / camera α7CR / lens SEL70200GM2 / location Tokyo
Shinjuku Gyoen National Garden, Shinjuku, Tokyo.

また,春が来た.

近頃の平日はずっとテレワークで家に引きこもっていて,食事も「完全メシ」と「nosh」を通販で買えば,消耗品の買い出し以外外に出なくても生活が完結するということに気づいてしまい,駅前にふらっと買い物に行く回数すらも減った.休日も言わずもがな.外に出ても荻窪駅前まで.

それが春めいてきたなと思うと,少しは出かけようと思うようになるのだから不思議なものだ.「春になると不審者が増える」という話は,不審者以外も外に出るようになっているだけなのかもしれない.

目的地もなく外に出て,荻窪の民はとりあえず東に向かう.そして新宿なら何かあるだろう,と思って何となく新宿で電車を降りる.降りてはみたものの行くアテもない.何となく歩いていると新宿御苑に吸い寄せられる.人だかりができているところがあるので,やはり吸い寄せられるようにそこに向かうと,寒桜が咲いていて,メジロが蜜を吸っていた.



蜜を吸うメジロを撮りながら,そういえば去年もここで同じように撮っていたな,ということを思い出す.もっと言うと荻窪に引っ越してきて最初の春も同じことをしていたような気がする.ノープランのお出かけは,不思議な力でホメオタシスが発揮でもされているのか,どういうわけか同じようなことを繰り返してしまう.

蜜を無心で吸うメジロは,蜜に集中しているようで,それでも野生の警戒心は失っていないらしく,ムクドリが飛んでくると一目散に逃げていってしまった.一方そのメジロを撮る人間のほうはと言えば,撮るのに夢中で公園整備の車の通行の邪魔になっていることにも気づいていなかったりする.人間という生き物の限界を感じる.

そういえば荻窪に来てから初めて新宿御苑に来た時の自分も,桜を撮っていたのだが,その桜を撮っている自分に気づいた会社の同期に見られていたことに気づかなかった.人間は何かを覗く時,何かに覗かれていることになかなか気づけない.


新宿御苑とか,代々木公園とか,そういうスポットは,知っている人に会うことなど無いだろうと思わせつつも,意外とそうやって誰かに遭遇してしまうスポットだったりするのが恐ろしい.「東京は遊ぶところがいっぱいある」なんて言いつつ,実は人が行く場所などたかがしれていて,意外にも遭遇してしまうのだ.

その点,気楽なのは荻窪.前職時代は何故か荻窪に住んでいる人が多くて,朝マックを買いに行ったらオールの飲み会明けから帰るところの先輩に遭遇したり,西友で買い物する同じ部の偉い人に遭遇したり,意外と気が休まらない街だったのだが,転職してからは荻窪に住んでいる民はどうやらいないらしく,誰かに遭遇する心配もないお気楽な街になっている.


反面,荻窪在住も間もなく8年目.「自分を知っている人」はいないが,「名前も知らぬが自分は知っている人」は少しずつ増えている.最初は日本語がたどたどしかったコンビニ店員の外国人は今では流暢な日本語を話すようになったし,スーパーのセルフレジの横に立っている店員さんは相変わらず愛想は悪いし,早朝のマックに朝マックを買いに行くといつもの店員さんがいて,10時前にカメラ屋の前を通ると店員さんが開店の準備をしている.

向こうはこちらを認知しているはずもないだろう.新宿御苑でメジロを覗くように,荻窪でも一方的に荻窪を覗いている.実に愉快だ.

実家だと,こうは行かない.それこそ蜜を吸うメジロの如く,スーパーでハーゲンダッツを漁っている時にそれを担任の先生に見られていたり,コンビニで肉まんを買うさまを父親の知り合いに見られていたり,どこからか覗かれている監視社会,それが田舎だ.その点,荻窪はそういうのが無い.ただただ愉快である.


……だがしかし,一方的に覗いているはずの新宿御苑では実は覗かれていた.荻窪でもそうでないという保証は,どこにも無いんじゃなかろうか.

実は「土曜日に部屋着に上着だけ羽織って,ソーセージマフィンを買いに来る無精髭生やしてる異常独身男性(31)」という形で認知されている可能性がゼロとは,言い切れない.

そう考えると急に怖くなってきた.今度の土曜日は髭くらいは剃ってから行こうか.いや,それでも「いつもは無精髭だけど突然髭を剃ってきた人」になるだけかもしれない.ああ恐ろしい.