Bluelight Sonata

2025-09-06

#35 穴が開きそうな靴で踏みしめる | 根暗草子

根暗草子 / camera α7CR / lens Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA/SEL55F18Z / location Aichi
Shikemichi, Nagoya, Aichi.

「なんか欲しいものないの?」と聞かれた.どうして祖父母というものは孫に何かと買い与えようとするのか.未だに孫が小学生くらいの頃から感覚が変わっていないんじゃないだろうか.眼の前にいるのは残業代を持て余しているアラサーである.

妹と一緒に祖母に会いに行ってきたのだが,そんな感じで妹のほうは服とか買ってもらっていたが,はて自分は何が欲しいのか.


服.これは間に合っている.服はユニクロでしか買わないと決めている.色々考えたのだが本当に欲しいものが何も思いつかなくて,いやいいよ欲しいものないし,とか言うのだが,どうもそれを遠慮しているものと思い込まれてしまい,いやいやせっかくなんだしさあ……みたいなやり取りが続く.

でも本当に欲しいものなんて何も無いんだよな.こういう場面で買える程度の欲しいものは,もう全部買っている.意外にも物質的には満ち足りた生活をしている.あとは欲しいものと言えば,サクッと買えないようなものばかりだ.Macbook欲しいとか.デスクトップPCのパーツ全部取り替えたいとか,カメラのレンズ買い替えたいとか.全部数十万円コース.んなもんこの流れで買ってもらうわけにもいかんし.


それでも遠慮するなと言われて絞り出したのが,靴.そういえば靴はそろそろ買い替えても良いと思っていた.足を引きずるようにして歩くので踵が擦り切れそうになっていたのを思い出した.そういうわけで靴屋に行ったのだが,全体的にどうもしっくりこない.全部の靴が「そういうのじゃないんだよな」という感じ.

そうなってくると,やっぱり靴なんて買い替えなくてよくね,となってしまう.せっかく買ってもらうのに,しっくりこない靴を買うのは逆に申し訳ないんじゃないか,と.


そういうわけで,いややっぱり欲しいもの無いわ,と押し切って何も買わずに帰ってきた.最後まで折角なんだからさあ,孝行だと思ってさあ,などとぼやいていたが,欲しいものが本当に何も無いのだから仕方ない.

昔はあれが欲しいこれが欲しいと,欲しいものはたくさんあった気がするのだが.お金がない時に限って欲しいものはたくさんあって,いざお金を稼げるようになったら欲しいものが無い.世の中はどうしてこううまくいかないのだろうか.

いつからだろうね,欲しいものが無くなったのって.思い付くのは引っ越しとアパートか.引っ越しの時に大量にモノを捨てて,モノを増やすって意味ないなと思ったのがキッカケの1つで,そして狭いアパートに住んでいるとモノを増やすと物理的に圧迫される感じがある.

狭い家に住んでいるとこんな簡単な孝行すらできなくなるのである,と踵のすり減った靴で歩きながら思った.