#21 或いは長すぎる思春期の終わり | 根暗草子
早いもので社会人生活も4年目を終え,5年目がはじまった.なりたいものは明治期の文豪の小説に出てくるような高等遊民と言って憚らず,神を信じないと言いながらも実家の裏庭に油田が出て仕事をやめられるように神に祈り,入社式への出社が嫌すぎて列車に揺られながら桜並木を見て吐き気を催した自分も,なんやかんや仕事をやめずに4年目を終える.
これははっきり言って驚愕の奇跡の産物としか言いようがない.高校生の頃の自分に「大学院に寄り道するけど,就職してちゃんと働いてるよ」と言ってもまず信じないだろう.そもそも,現にそれを達成した自分がそれを信じられない.
丸4年経って,同期はポロポロと転職のために離脱していっているし,最近は後輩でも転職していった人が出てきた.それでも弊社でよく言われる「裕福な暮らしができるってほど給料は高くないけど,それでも世間一般の平均よりはちょっといいくらいの給料は貰えているし,躊躇いなくちょっとした贅沢するくらいの暮らしはできる」という絶妙な給与水準もあってか,世間一般の3年以内離職率とかを鑑みると,離職のペースは低いとは思う.だいたい月に多くても1人か2人,他の部門の同期がいなくなっていってるなーくらいの感覚.
なんて思っていたら,唯一入社以来ずっと同じ部門で,自分にとっては一番仲が良い──という概念が本当に自分に存在するのであれば,だが──と思っていた同期がやめた.弊社はテレワークベースで不定期出社,というスタイルになっているのだが,ある時から急に「今度いつ出社する?ごはん行ける?」と聞いてくるので,何か話したいことがあるんだろうな,という薄っすらな予感はあって,それでも出社のタイミングは合わずじまいで,最後はTeamsのチャットで「実は……」と切り出された次第.
そう切り出されたとき,普通に,非常に寂しいと思った.思ったのだが,捻くれた人格が「お前は同期がやめると聞いて素直に『寂しい』と言うタイプじゃないだろ.ちゃんとキャラクターマネジメントしろ」と囁き始めてしまったため,「へー,そうなんだ.最終出社いつ?」みたいな塩な反応をしてしまった.斜に構えすぎだがそういう脳みそが出来上がっているので仕方がない.そしてその後も最終出社の日まで出社日が合うこともなく,チャットでおつかれっしたーと伝えて同期を送り出した.
そしてその話には続きがある.これは後日談になるのだが,退職した同期と話す機会があって,その「へぇそうなんだ」という反応について話題になった.同期曰く,その反応を受けて「ああ,本当にこの人は自分に興味ないんだな,と思った」ということらしい.
これには大きな衝撃を受けた.そっか,寂しいと思ったなら寂しいって言わないと伝わらないんだ,みたいな.中学生レベルの気づきを今になってしている自分の終わりっぷりに頭を抱えるしかない.
こういうのはだいたい,真っ当な青春を送る中で自然と身につける観念だと思うのだけれど,改めて自分にそれが欠如しているんだな,と思わざるを得ない.酸いも甘いも色々な経験をして思春期を終えて大人になっていく,そういうプロセスが欠如している.
更にその後日談の後日談として,「寂しいと思ったなら寂しいって言わないと伝わらないんだってようやく気づいたので,今年からは真っ当な人間として生きていくので.長過ぎる思春期がようやく終わったので」とその同期に伝えたら大笑いされた.そりゃそうだ.本当に今更真っ当な人間にジョブチェンジできるのかは相当疑われているけど,監視者もいることだし緊張感を持って真人間になっていきたいと思う.それが今年,2023年の新年の誓い.