Bluelight Sonata

2023-01-01

#17 山口さんちのツトム君がこの頃少し変だった理由を思い出せない | 根暗草子

At Rissyaku-ji, also known as “Yamadera”, Yamagata.

また一つ歳を重ねてしまった.前回の誕生日,勢いで大阪に遊びに行って「誕生日を旅して過ごす」ことに味を占めてしまい,今年も無理やり休みを1.5日分捻出して向かうは杜の都,仙台.本当はまた大阪に行って,ちょっと良いホテルにでも泊まろうかと──もうアラサーだし──思っていたのだが,直前に東北でいい感じに雪が降り,雪景色を見たくなり進路を北に向けた.大阪はまた来年の楽しみということにする.


それでも「ちょっと良いホテルに泊まる」気分になってしまっていたので,仙台でいつもよりは少し良いホテルを探して泊まった.少し良いホテルだけあって普段泊まるようなビジネスホテルとは違い,浴室も独立でまあまあの広さ.せっかくなので湯船に湯を張りつつ,身体を洗いながらおもむろに歌を口ずさんでみる.

普段は自宅でもシャワーで済ませていて,浴室で湯を張って入浴するのは本当に実家に帰ったときくらい.それが理由か,口ずさむ曲も懐かしさを覚える子供の頃の曲が不思議と多くなった.意外な行為で意外な連想が炸裂するもんだな,人間って.

湯船に浸かってぼんやりしつつ,次に歌うは「山口さんちのツトム君」.別に意識的に選んだ曲というわけではなく,ただ何となく思い浮かんだので口ずさみはじめる.「山口さんちのツトム君,この頃少し変よ.どうしたのかな」……と口ずさんでそこで歌うのを止める.さて,この続きの歌詞はなんだったかな,と.


リズムは思い出せる.音程も思い出せる.つまりハミングはできるくらいには覚えているのだが,どうしても歌詞を思い出せない.しばらく「フフフンフフフンフーンフフン♪」とハミングし続けて歌詞を思い出そうとするが,やっぱり思い出せない.「湯船にお湯張ったら昔懐かしい曲を想起する」というバタフライ・エフェクトは成立するのに,何故メロディーラインまで完全に思い出せる曲の歌詞を思い出せないのか.本当に自分の脳内は意味がわからないことになっている.

湯船に浸かって考えを巡らせる.山口さんちのツトム君はこの頃少し変で,詳しい歌詞は忘れたけど「遊びに誘っても断られる」みたいな,そういう異変がある,という感じの歌詞だったことは薄っすらと思い出しはじめた.ただ結局その原因はなんだったのか.そこが思い出せない.

更に湯船に浸かる.だいぶ身体も暖まってきた.ここからは根拠も何もない,ただの推測というか,思考遊びになっていく.そもそも山口さんちのツトム君って何歳くらいだっけ.多分幼稚園とか小学校低学年とか,それくらいだと思うけど,敢えてそんなことには気づかなかったことにする.「もし山口さんちのツトム君が社会人なら」,これで考える.

この頃少し変な同僚がいたとして,その原因は何なのか.まあよくあるのは,うつ病だな.世知辛い.なんか最近調子悪そうだな,みたいな話をしてたと思ったらメンタルやられてダウン.よくある話だ.よくあるっていうのがもう世知辛い.あるいは,「仕事が嫌になって転職を決めているが,まだ退職することを伝えていない」,これもあるだろう.山口さんちのツトム君を飲み会に誘っても最近つれなくて,蓋開けたら弊社にもう見切りつけてました,みたいな.悲しい.

ここまで考えたところでのぼせてきたのでギブアップ.答えは思いつかなかった,というかどう考えてもツトム君社会人じゃないから本当に無駄な推測してしまった.


ちょっと良いホテルなのでバスローブがついている.バスローブにくるまって答え合わせ.「山口さんちのツトム君 歌詞」で検索.正解は「お母さんが田舎に帰ってしまった(が帰ってきたので3番の歌詞で元気になったツトムくんが復活した)」だった.うつ病じゃなくて良かったー!

……と思ったところでふと気づいてしまう.小さい頃はよく考えもしなかったけど,なんでお母さんはツトム君を置いて田舎に帰ったんだろう.その解は歌詞にはない.最初から本当の答えなんて歌詞にはなかったんじゃないか.

せっかくの誕生日なのでこれ以上は考えないことにした.根暗だからお母さんが小さい子供を置いて田舎に変える世知辛い理由なんて,考えたらいくらでも思いついてしまうからね.

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