はらからはらはら | The Express Train Heads North.
遠くスコットランドのハイランド地方,Fort Williamから寝台特急に揺られてロンドンに戻ってきた.実に4日振りのロンドンである.……と言って思う,そうかまだ4日振りなのか.ヨーク,エディンバラ,グラスゴー,グレンフィナンとブリテン島を放浪したここ数日はあまりにエキサイティングで,もう1週間くらいは経ったような,そんな錯覚を覚える.
ここ数日はスコットランドで過ごしてきて,そしてロンドンに戻ってきたわけだが,やはり街の雰囲気はちょっと違う.建物の感じが少し違う気がするのと,後は何よりアジア人の多さが違う.スコットランドでも見かけなかったわけではないけど,明らかにロンドンのほうがアジア人への遭遇率が高い.日本人に至っては4日前にロンドンを発ってから1回も見かけなかったが,ここロンドンではちらほら日本人を見かける.
「旅してる感」という意味でいうと,アジア人がわんさかいる街よりは,アジア人がレアな街のほうが「旅してる」感はある.その辺でガンガン日本語が飛び交っているとちょっと萎える自分がいる.一方で,全くアジア人がいない街というのは中々に自分の「異物感」が突きつけられる感じがして,旅感はあって良いのだがいかんせん疲れる.その最たる例がキューバだった.アジア人がいなすぎてかなり悪目立ちしており,「どこから来た?」と聞かれまくったのは記憶に新しい.
結局,アジア人が適度にいる環境のほうが落ち着いている自分がいる.
海外旅行中,たまに「ちょっと写真撮ってくれ」と言われることがあるが,声をかけてくる人がアジア人である割合は有意に高い.ヨークで声をかけてきたのは中国人だった.ロンドンのブリックレーンで声をかけてきたのは韓国人だった.
何でなんだろう,というのは分からない……が,ワンチャン自分と同じ国から来ている可能性に賭けて声を掛けている可能性はある.あとは何と言うか言語化しにくいのだが,「メチャクチャなことやらなそう」っていうところだと思うな.写真撮ってくれよな~ってことは当然スマホを預けるわけで.こっちが実はとんでもない悪人で,スマホ預かってBダッシュでトンズラするリスクだって,ゼロではない.その辺りがこう,何か自分と近い人種の人間のほうが本能的な安心感みたいなものがあるような気がする.これは自分の内に埋まっている差別意識なのかもしれないけど…….別に同じ日本人だから,アジア人だから全員信用できるってわけではないしね,そもそも.自分はそもそも割と日本人相手だろうと他人というものをあまり信用していない.
そもそもこの「他人に対する信頼」の高さは結構国によって違うような気もする.
今回の往路の乗継地は上海で,6時間くらい待ち時間があった.ただひたすらゲート前のベンチで座っていたのだが,上海の空港だけあって当然中国人が多かった.6時間の待ち時間はあまりに長く,石ころのようにベンチに佇んでいたところ,いきなり若い中国人に中国語で話しかけられ——東アジア人同士だとこれが困るんだよな,パット見どこの国の人かホントわからん——,「は?」みたいな顔をしたらこちらが中国人でないことを察したのか,今度は英語で話しかけてきた.
「ごめんけどスタバ行くからこの荷物見といてくれない?」
反射的に「OKOK!」って言ったけど,マジか.不用心すぎない?こっちがリアルガチの悪人でさ,荷物を掻っ払って別の飛行機に乗って逃げるとかさ.そういう可能性だってあるし.そこまで悪人じゃなくても,「OK見とくぜ!」と言ったのに普通に荷物を見捨てて買い物に行ったりする可能性もあるし.日本だとあまりなくないか,こうやって他人に頼むって.でも彼らは最初普通に中国語で話しかけてきたあたり,彼らの文化としてはこうやって他人に荷物を見ておいてもらう,という行為は,きっと当たり前のことなんだろう.
いやあすごいね.自分がもし彼らの立場なら,荷物が心配でハラハラしてしまいスタバなんて行けない.基本性悪説で生きているから.でも彼らはそうじゃないんだろうなあ.ハラハラすることもなくキャラメルマキアートとか頼むのだろう.上海のスタバにキャラメルマキアートがあるのかは知らないが.
そういうわけで彼らはハラハラしなかったと思うのだが,彼らがなかなか戻ってこず,こっちは突然トイレに行きたくなって膀胱が破裂しそうだったので普通にハラハラした.彼らの文化からすれば,その辺に座ってる人に「あの荷物,見張り頼まれたんだけど小便漏れそうなんであとはよろしく」と頼んでも良いはずなのだが,いかんせんこっちは中国語が話せないのだ.そして,ここ数時間の経験上,中国人相手には意外と英語が通じない.英語で話しかけてみて「は?」みたいな顔されたらあたふたして多分小便を漏らすことになるだろう.
結局,彼らが戻って来るまでの間,律儀に荷物と膀胱を守り続けた.本当にハラハラした.せっかくいただいた信頼である,きっちりと応えようではないか.たとえ小便を漏らしたとしても.