My Dear Friends | My Favorite Things
スルタンアフメト・モスクに行こうと思ってトラムを降りたら,「日本人ですか?モスクに行くんですか?今日は閉まってますよ?俺がもっと良いところ案内するよ!」と声をかけられた.早速か.ノコノコ着いていったら絨毯買わされるやつである.壺や絵を売りつけてくるよりは絨毯には実用性があるので幾分マシではあるが,どっちにせよ詐欺だ.
ちなみに,これはリアルに日本語で話しかけられた.「いや,まあ自分で見に行くから」と言って辞去したら,追いすがろうと「あ,財布落としましたよ!」と気を引こうとしてきて,もちろんコレも嘘なのだが,それでも無視して歩き続けたら諦めたのか「バカ」と捨て台詞を吐いてその詐欺師は消えていった.観光ガイド本で見たお手本のような王道詐欺ムーブを,文字通り教科書通りに披露されたので笑ってしまった.キミたちの詐欺手順,日本の観光本にガッツリ紹介されてまっせ.
あと最後に「バカ」と罵倒してくるのは芸術点が低いと言わざるを得ない.もっとこう,“刺さる罵倒”をしてこいよ,と思う.もし「やーい!異常独身男性(30)!」と言われたら「いやまだ(29)だわ!」と突っ込むために立ち止まっていたと思う.もしそう言われていたら,その刺さり具合に免じて絨毯を買っても良かったのだが.
早速こんな声掛けをもらったので,一気に警戒レベルを引き上げた.「トルコ行くわ」と言うとよく「親日国らしいし,旅行しやすいらしいね」と言われるのだが,浅い.あまりに浅い.浅すぎて潮干狩りができるレベル.親切な人と詐欺師が混じり合った街ほど旅行しにくい街はない.相手を信用してよいのかわからないからだ.いっそ全員心の奥底から日本を憎んでいるくらいのほうが,常に臨戦態勢でいられるだけマシなんじゃないか?
だからその後,「私,昔日本に住んでたことある.トウキョウ.ムサシコヤマに住んでた」と話しかけてきたおじさんを詐欺師認定するか非常に悩んだ.「武蔵小山」て.微妙に信じたくなる嫌らしいラインを突いてくるじゃないか.へえ武蔵小山.シブいね.みたいな返事をしたら「この後どこ行くの?」と問われたので,多分ぼったくりバーにでも連れて行く展開だなと思い,武蔵小山おじさんは詐欺師認定することにした.でも本当に武蔵小山に住んでたことがあるだけの気さくなオジサンだったかもしれない.その場合は申し訳ないことをしたと思う.
結果的に怪しいやつを見分けるラインは「日本語で話しかけてくるか」だったように思う.「日本人?私日本に住んでたことあるよ」と声をかけてくる奴は怪しい.そういうライン取りで良い.
では怪しくないやつはどんな風に声をかけてくるのか?
怪しくないやつは英語でこう声をかけてくる.「Oh my friend,めっちゃいいカメラ持ってるやんけ!俺たちを撮ってくれよ!」これである.
最初にこの声掛けを受けた時は「武蔵小山オジサン」より怪しいと思った.写真撮ったら金せびってくるか,写真撮った隙に何かをスるとか.だいたい「My friend」て.お前が今目の前にしているのは友達少ないでお馴染みの異常独身男性(30)なのだが,その辺り分かっているのだろうか?いや(29)だわ.
でもまあ,金せびられても断れば良いし,相当スリ対策してるから大丈夫だろう.写真を撮って見せたら「おーメッチャクールやん!どこから来たん?日本?ええやん!楽しんでな!ほな!」と消えていった.金はせびられなかったしスリ被害にも遭わなかった.単純に写真撮られるのが好きな陽気な兄貴たちだったらしい.
で,それは一組だけではなかった.2組目くらいでもまだ怪しんでいたが,3組目4組目と「写真撮ってくれよ」アニキたちに会うにつれて,このパターンはどうやらシンプルに写真好きなだけらしいと,警戒感は持ちつつも少しだけ安心した.トルコ人は写真好きが多いとは聞いていたが,写り込んでいる時に頼んでいないのにポーズ決めたり,むしろ敢えて写り込んでくる人までいる始末だった.
そんなわけで,自分はポートレートを撮ったことは今までなかったのだが,「写真撮ってくれ」アニキたちのお陰で遠くイスタンブールでポートレートデビューと相成った.
それはそれで良い経験だった.良い経験だったのだが,いい感じの色の三輪バイクを見つけて撮っていたら,さっき写真を撮ったアニキがまたフレームインしてきたのには参った.しっかりAFをアニキに合わせに行くカメラの要らぬ気遣いにも参った.違うそうじゃないって.