#05 始発の下り列車には多様な客層と同種の雰囲気が渦巻いている | Just before the dawn
渓谷から僅かばかり見える東の空が薄っすらと白んでいった頃,始発の下り列車がジョイント音を響かせて走り去って行った.
栃木県は日光市,鬼怒川温泉の温泉ホテルに泊まってきた.鬼怒川温泉は割と大型の温泉ホテルがあるタイプなので,あまり街歩きをするような感じの温泉街でもない.少し渓谷沿いに散歩した後はホテルに引きこもって積む一方で全く読み進められていなかった本を読んでいた.
電車乗って鬼怒川温泉に来て,ちょっと散歩して温泉入って,温泉入って,温泉入った.そんな一日だった.大してエネルギーも消費してないのに,温泉で身体がぽっかぽかになっていたので,布団でゴロゴロしていたら早々に眠りに落ちてしまった.
早々に寝付いたものの,疲れもさほど……だったからか夜明け前に目が覚めた.朝風呂でも入るか,と起き上がってはみたものの,なんとなく部屋から出るのが面倒になって,広縁の椅子でまた本を読みながら,薄っすらと白んでいく東の空をバックに,始発の下り列車が走っていくのを眺めていた.
最近,仕事で夜勤や時差勤務をすることがあり,訳の分からない時間に出勤したり帰宅したりすることが増えてしまい,始発列車に乗る機会も増えた.昔から始発の上り列車で出かけることはよくあったけど,最近は夜勤明けで始発の下り列車で家に帰る機会が出てきたのが今までにないWhat's new.
この「始発の下り列車」,乗ってみてわかったのだが乗客層がカオス.郊外にオフィスがあるのかこれから出勤する風のサラリーマン,夜勤明けの帰宅民,明らかに飲んでいたら前日の終電を逃した人,ついでにそのまま飲み明かしたのかまだ泥酔している人.だいたい出勤するリーマンしか乗っていないような上り列車とは対照的に,下り列車の客層は多種多様.
客層は多種多様なのだが,全員疲れ切って饐えたような雰囲気を醸している,ということだけは不思議なほどに共通している.時間帯が時間帯なので会話をしている人なんて誰もいなくて,みんなだんまりを決め込んで座っているか,あるいは寝落ちして席から転がり落ちそうになりかけている.この世に希望なんてないんじゃないかと思わざるをえないような,何とも言えない退廃的な雰囲気.出社する人を詰め込む上り列車とすれ違う下り列車には,そういう雰囲気が詰め込められている.
実際のところ,夜勤明けで一番疲れるのはこの電車に乗っている瞬間なのだ.物理的に眠気と疲労のピークが来ているものの,何とか寝過ごさないように意識を保とうとする最中に襲いかかる車内の雰囲気は,少しずつ身体を蝕むように,更に一段深い疲労を叩き込んでくる.そこが一番夜勤の辛いところだ.
「思い出した饐えた感じ」が纏わりついている気がして気分悪くなってきたのでようやく朝風呂へ.せっかく栃木県の山奥まで来て温泉に浸かりに来てたのに嫌なこと思い出しちゃったよ.