#02 胎動 | Just before the dawn
ホテルに素泊まりするのが好きだ.朝食無料プランがあればホテルの朝ごはんを食べることもあるけど,だいたいは素泊まりにして朝イチに近くのコンビニまで歩いていく.
そうして白い息を吐きながら夜明け前の街をふらりと彷徨うのが旅の醍醐味だと思う.観光地でさえも朝早くは観光地の顔を隠していて,早くから出社するサラリーマンに生活感を感じることができたり,思いも寄らない一面が見えきたりする.
ここ,横浜みなとみらいの場合は有名観光スポットがいつもと違う顔をしていた.コスモワールドは明かりが消され人っ子一人いなくて,日中のやかましいほどの賑やかさからすると想像できない静けさ.ふっと覗き込むと廃墟のような寒々しささえ感じられた.
赤レンガ倉庫の横の駐車場はてっきり赤レンガ倉庫の営業時間にしか開いていないのかと思ったら24時間開いているらしく,新港橋の袂には通行量も少ないのに律儀に誘導員が立っていた.
一体こんな時間に誰が駐車場を使うんだ?と思って赤レンガパークを覗いてみると,そこは釣りスポットになっていた.確かに海沿いだから釣り人がいてもおかしくないのだけれど,昼間にここで釣り人を見た記憶がないのは何故だろう.
釣り人には子供を連れた家族連れもいた.小さいのによく朝早くから起きていられるなあ,なんて思ったけど,よく考えると子供の頃のほうが朝起きようと思えば起きれたよなあ.今ではあまりの布団のぬくもりへの執着故に,よほど大事な用事がなければなかなか朝起きることができない.むしろ,布団で丸まる以上に大事なことなんてこの世にあったっけ?今日は真っ当に朝早くに目を覚ましたけど,これはとてもすごいことだと思う.えらいよね?誰か褒めてくれてもいいんじゃないの?
山下公園ではどこからともなく流れてくるラジオ体操で身体を動かす人たちがいた.「朝公園に集まってラジオ体操をする」,そんな光景を見るのは考えてみると小学6年の夏休み以来なんじゃなかろうか?6年生になると夏休みに当番制でラジカセを抱えて公園に行ってラジオ体操を流し,カードにハンコを押す大役を任せられるからだ.休みにも関わらず半強制的な労働,子どもの世界もなかなかにブラックだ.
最近,急速にハンコが非効率の象徴として悪者になっていって,個人的にはその流れには大賛成なので早く滅びてしまえばいいと思うのだが,さすがにラジオ体操の参加確認をQRコードでやるようになる未来は見えない.きっとハンコはこういうところで細々と生き残っていくんだろう.
いやでも,例えばラジオ体操の出席確認をスマホアプリでした分ポイントが貯まって全国規模でランキングが出るとかどうだろう?おもしろ……くないな,よく考えなくても.ラジオ体操参加をゲーミファイする,考え方は悪くないと思うんだけど踏み込みが足りない.これは今後の課題にしよう.
そもそも夏休みにラジオ体操をする,という風習が廃れるのかもしれない.もっと言うと都心ではそんな風習はもうないのかな.よく考えると家の近くには住宅と住宅の間の猫の額ほどの小さな土地に申し訳程度の遊具がある公園しかなくて,子供が集まってラジオ体操をするような公園はないような気もする.
雑念のない朝の研ぎ澄まされた意識で,雑念に思いを巡らせながら街を歩くと,東の空が白んで,建物の明かりが灯り,街は動き始めていつもの横浜がやってくる.さて,そろそろホテルに戻ろうか.本日の歩数,既に1万歩也.朝からよく歩いた.