Bluelight Sonata

2026-04-25

未来の自分と歩くヴェネツィア | Interlude

Interlude / camera α7CR / lens SEL24105G / location Italia
La regina dell'adriatico, Venezia, Italia.

旅の終着点,ヴェネツィア.ローマからItaloに揺られること数時間.ヴェネツィアに着いた時の気分は全くもって最悪だった.2024年のメキシコ・キューバ,トルコ,イギリス,そして2025年のポルトガル・スペイン.これまでの長期――と言っても1週間強だが――の旅は,最後はいつも旅の終わりの悲しさに「やっと帰れる」という安心感が添えられていた.“旅の終わり―帰国の安堵を添えて―”という感じだ.

ところが3週間弱,6カ国を放浪したこの旅の終わりには,安堵は添えられないようだ.シンプルに,旅の終わりが悲しくて仕方がない.最悪な気分と同期するように,この旅最初で最後の腹痛に襲われたのも,ここヴェネツィアである.サンタ・ルチーア駅のトイレが空いていなかったら最後の最後でケチが付くところだった.


さて「ヴェネツィア」と言えば思い浮かべるのは,水の都.運河そしてゴンドラだろう.しかし,皆が思い浮かべる海上の水の都・ヴェネツィアの本島だけがヴェネツィアなのではなく,実は本土側にもヴェネツィア市の領域は広がっている.

今回の投宿地は,そんなヴェネツィアの本土側.終着駅のヴェネツィア・サンタ・ルチーアから二駅隣のヴェネツィア・メストレである.理由?まず第一に階段だらけのヴェネツィア本島側のホテルに泊まると,駅からホテルにスーツケースを転がすのが辛いから.第二に,本島のホテルは自分が苦手なB&Bっぽいスタイルのホテルが多かった.そして第三に本島のホテルが本当に高かった.……はい.

そんな訳で,現実的に泊まれそう,かつ泊まりたいホテルを探した結果辿り着いたのがメストレだった.電車で二駅も離れたところに?と思うだろうが,実はメストレからサンタ・ルチーアまでは電車で10分くらい.本数も非常に多く,数分に1本は列車が来るレベル.言うなれば「新宿のホテルが高いので荻窪に泊まる」ようなものだ.つまり,メストレとは荻窪である.

変な喩えをしたせいで帰国を思い出してしまい余計に気分悪くなったわ.メストレは最悪だ.



最悪な気分と同期するように,ヴェネツィアに滞在した2日間は低く濃い曇天と雨となった.シチリアで雷雨を辛うじて回避できた運も尽きた.ヴェネツィアは晴れて欲しかった.晴れてこその運河,晴れてこそのヴェネツィアだと思うんだよなあ.

雨の何が嫌って,写真趣味的に嫌なのだ.どうしてもカメラが濡れないように庇いながら撮影することになる.「防塵防滴に配慮した」などという奥歯に何か詰まったような言い方をするメーカーのせいで怖くてカメラを濡らせない.

そして何より,曇天は映えない.空を入れると一面真っ白な雲で,日は差さず明暗差もなく.さてどうやって写真を撮ったものかと途方に暮れる.

「雨だから撮れる構図」というのも確かにある.水たまりとか,リフレクションとか.でもプラマイしたら間違いなくマイナスだ.



だから,天気が悪いからかな.ヴェネツィアとは何と言うか,波長が合わなかった.1日目は夕方から雨の中散策してみた.何か違うな,と思った.2日目は雨こそ降らずも気分落ち込む曇り.朝から水上バスでカナル・グランデを走ってサン・マルコ広場まで行ってリアルト橋を渡って歩いて帰ってきた.もちろん写真を撮りながら.一度ホテルに戻ってお昼休憩.さあ午後の陣と行きましょうか,と思ったが何となく腰が重い.

このままホテルでゴロゴロして,それで終わりにしたいな,って思っている自分がいた.それくらい波長が合わなかった.



いやいや,ここまで来てそんな終わり方無いだろ.と自分で自分の尻を蹴り上げて立ち上がった2日目の午後.ヴェネツィア本島に着いたら,よりによって雨が降り始めた.最初は折りたたみ傘を差して,写真を撮りながら歩いてた.でも途中でもう面倒くさくなってしまって,カメラはカバンに入れてしまった.

そうして写真趣味を始めてからのここ10年弱で初めて,旅先でカメラをぶら下げない街歩きが始まった.でもね,もう多分,気づかないうちに旅と写真の主従は逆転していて.元々は「旅先の景色を撮れたら嬉しいな」から始まったはずだけど,今となっては逆に「撮れないなら意味がない」になっている.だから,カメラをカバンに仕舞って歩く今,どうやってヴェネツィアを歩けば良いのか,それがわからない.


旅がキッカケで始まったカメラは,飽きやすい自分としては珍しく長く続く趣味になっている.でもいつかはきっとカメラに飽きる日が来てしまう気がしていて.いつかカメラに飽きた日が来たら,その時の旅はこんな風になるんだ,という未来の自分の街歩きを,ヴェネツィアですることになった.

余談ながら,波長が合わねえ合わねえと言いながら撮っていたはずのヴェネツィアの写真だが,帰宅してPCに取り込んでみると,別にそんなに悪い写真ではなかった.なんであの時あんなにテンション低かったんだろう?単純に旅が終わる寂しさだけだったのか?それを確かめるために,今度はヴェネツィアから始まる旅をしたい.カメラに飽きる前に.