Bluelight Sonata

2026-01-03

安息日とざわめきのイムディーナ | Interlude

Interlude / camera α7CR / lens SEL24105G / location Malta
L-Imdina, Malta.

この旅で初めての日曜日は地中海の島国,マルタで迎えた.土曜の夜にスイス・チューリッヒから飛んで,マルタ国際空港で一瞬預け荷物のAirTagがスウェーデンのよくわからない街を指し示した時は,ああついに人生初のロストバゲージをやらかしたと覚悟した.ところがその数分後にはAirTagは何事もなかったかのようにマルタを指し示し,自分のキャリーバッグはまるで当然のように――というか本来は当然なのだが――ベルトコンベアに運ばれてきた.この数分で寿命が縮む思いがした.

ロストバゲージ未遂で数日の疲れがどっと押し寄せてきた.ドイツ,フランス,スイスと言葉も文化も違う国を辿ってきて,街を散策することしかしていないけれど,それでも疲れは着実に溜まっていって,それが一気に表に出てきた.ああAirTagよ恨むぞ.お前がすんなりと「マルタに着いてます」と言えばこんなことにはならなかったのに.

空港からはUberを使おうと思ったのだが,思ったよりも値段が高く,仕方なくバスを使うことにした.そのバスもまあまあ混んでいて,おまけに降車するバス停が終点でなかったものだからキャリーケースを引っ張り出すのにも苦労し,ようやく引っ張り出せた安心感からウィンドブレーカーをその辺に忘れていきそうになった.踏んだり蹴ったりである.ああ円安よ,お前も恨むぞ.お前が1ドル80円くらいの力があれば,迷うことなくUberでホテルに直行しただろうに.


そして迎えた日曜の朝.結局疲れは取れたような,取り切れていないような.でも問題無い.今日は日曜日,安息日である.

シチリア島内を移動する計画を立てていた時に,日曜日になると電車やバスの本数が一気に減ることに気付いた.そういえば去年行ったスコットランドも,土日ともなるとバスが一気に運休になってハイランド地方は移動もままならない感じだった.なるほどヨーロッパは日本より「日曜はしっかり休む」が根付いているなと思った.

それならば,自分も日曜日はノンビリすることにした.日曜日にはあちこち移動することもなく,その時滞在している街でノンビリしよう,と.ちょうど週に1回くらいはコインランドリーで洗濯を回さないといけないし.日曜日は滞在地で洗濯してノンビリする日!である.その1回目がマルタ・セントジュリアンズというわけだ.

なので,マルタでのホテル選びは「近くに口コミ評価の良いコインランドリーがある立地」が最優先された.いまだかつてこんな基準でホテルを選んだことはなかった.



自分はこと観光においてはあまり下調べをしないことが多い.行きたい街だけを決めてあとはカメラをぶら下げて散策するスタイルなので.有名観光スポットみたいなところにもあまり行かないし.ただしコインランドリーに関してはかなり下調べした.なんせ「壊れていて動きませんでした」となると,1週間分のダーティ-・ランドリーを抱えて異国の地で途方に暮れることになるからである.だからGoogleマップに投稿されている写真と口コミで念入りに予習をした.何なら20ユーロまで対応の両替機があり,2段配置の上が洗濯機,下が乾燥機であることまで事前に把握していた.

そんな下調べの甲斐もあり,洗濯と乾燥は実にスムーズに行った.トラブルもなく暇すぎてランドリーのベンチに座ってiPadでハリー・ポッターを見ていたら,後から来た観光客が両替と洗濯機の使い方が分からず困っていたので教えてあげたくらいだ.「ここのスタッフじゃないよね?」と聞かれるくらいのプロっぷりを発揮してしまった.

だいたい1時間で安息日の洗濯ミッションを終えた.さっき洗濯機の使い方を教えてあげた観光客は「Have a good day!」と言って送り出してくれた.しかし"Good day"か.そりゃそうか,洗濯でミッションコンプリートして1日を終えたつもりだったが,時刻はまだ9時半.

今日は何をするか?何も決めてない.本気で「洗濯する日」としか思っていなかったのだから.


あまりの計画性の無さに笑えてくるが,いくら安息日と言ったってこのまま1日中ホテルでゴロゴロしているのは勿体ない気がしてきてしまった.バレッタは夕日の時間に行くとして,他に散策に行けるところはないかな……と調べて出てきたのが古都・イムディーナだった.

経験上,古都にハズレは無い.「ハズレ古都」があるとしたらそれはオーバーツーリズムで趣もクソもない京都くらいのものである.古都の面汚しと言っても良い.ところがこのイムディーナは「静寂の街」という異名を持つと言う.安息日に散策しに行くには実にちょうどよい街なんじゃないか?



結果から言うと,イムディーナは京都であった.つまり,「静寂の街」を目当てに訪れた観光客でごった返していた.是非その異名は返上いただきたいものだが,自分もその静寂を打ち破っている観光客の一味なのだから,あまり文句は言えないのが辛い.

強いて言い訳できるとするならば,自分は一貫して一人旅をしているので「静寂の街」という異名を毀損するような物音を立てていない,ということかもしれない.今日もホテルを出てから一言も発していない.発している音と言えば足音くらいというものだ.その点,ワイワイと賑やかな他のグループ観光客の皆々様とは一緒にしないでくれ,という気持ちは少しある.

例えば世の中の観光客が全員,自分と同じような一人旅スタイルだったらオーバーツーリズムっていうやつはどうなるんだろうか,という思考実験をしてみて,一言も発さない自分みたいなやつが大量に街中をウロウロしている異様なディストピアを想像して噴き出してしまった.



ざわめきから逃げるように人気のない路地に逃げ込んで一息つく.やはり観光客でごった返す街は苦手だ.「静寂」を拭い去るざわめきがあるから,というのもあるけれど,写真趣味的には「多すぎる人」は構図を限定する.「うわあそこに立ち止まらないでくれ~」みたいなことばかりになると,果たしてこの街に来たのは正解だったんだろうか?と思ってしまうこともある.

結局このイムディーナもひたすら人がいなそうな路地を散策して,ざわめきから逃げるようにバスに乗り込んでセントジュリアンズに帰ったが,イムディーナよりもバスの車窓から見えた名前も分からない普通の街のほうが,写真趣味的には楽しめたんじゃないかという疑念を拭い去ることができない.せっかくの何の予定もない安息日,変に観光地を検索なんてするんじゃなくて,適当にバスに乗って適当な街で降りるべきだったんだろうか.