Bluelight Sonata

2025-12-14

元の故郷の水ぞ恋しき | Interlude

Interlude / camera α7CR / lens SEL24105G / location Schweizerische
Bern, Kanton Bern, Schweizerische.

ドイツ・フランクフルトに降り立って,鉄道でオッフェンブルク,ストラスブールを経由して辿り着いたコルマール.次に向かうは地中海の島国のマルタ.島国故に飛行機に乗る必要があるのだが,マルタへ飛ぶフライトを見繕うのに苦労する.来た道を戻りフランクフルトへ行くか,あるいは花の都・パリを目指して西へ向かうか?そのどちらも非効率に思えて,ふと南に目を向けるとそこにあったのがスイス連邦だった.ここコルマールはフランス・ドイツの国境地帯であると同時にスイスとの国境も近い.60kmも南下すれば,そこはもうスイスである.

最初こそ,フランクフルト同様にスイスは経由地に過ぎない旅程を考えていた.コルマールからバーゼルへ向かい,そのままチューリッヒへ.チューリッヒ空港からマルタへ.ただ,この機会を逃したらスイスに来ることはもう無いかもしれないから少しはスイスを散策してみたいと思った.でもチューリッヒとバーゼルにはピンと来るものがなくて,色々調べて見つけたのは首都・ベルン.

「色々調べて」という表現には,「やっと見つけた」というニュアンスを含む.つまり,「スイスで少しは観光する」が先にあって,それをするためになんとか見つけたのがベルンだった.「少しは」観光するつもりだったので滞在は1泊.コルマールから移動してきて,翌日はチューリッヒの空港に向かう.観光に使うのは実質半日ってところか.

そんな「ついで」のはずのベルンだったが,結果的には1泊しかしないことを後悔するくらいに大当たりだった.



街を歩いていて「ああ,ここに住みたい」と思える,そんな街だった.旅の目的地として「良かった」「また行きたい」のと,「住みたい」のとでは若干意味合いが違っていて,「良かった」国や街はたくさんあるのだが,「住みたい」と思えるところは,そう多くはない.これまでの人生で訪れた国は,ここスイスで12カ国目になったが,「ああ,ここに住みたい」と本気で思ったのはイギリスに次いで2カ国目になる.それくらいのクリティカルヒットだった.

「住みたい」の意味合いは違うと言いつつ,何が心の琴線に触れたら「住みたい」と思うのかは,実は自分でも良く分かっていない.ここベルンに関して言えば,街中を走り抜けるトラムを見た時に「あ,住みたい」と思った.住みたいと思うのは唐突である,それはまるで——,と,残念ながらそれを比喩的にでも語れる感性を持ち合わせていない.

トリガーは「トラム」か?と言えば,多分そうではない.トラムを目当てに訪れたポルトガル・リスボンは「良かった」,ただ「住みたい」街では無かったように思う.逆にリスボンに住みたいとまでは思えなかった理由は何か?それもまた分からない.「坂道が多いトラムの走る街」という自分好みの条件を完全に満たしたリスボンに,何故住みたいと思わないのか?これが全く分からない.

「住みたい街」の片割れ,ロンドンに住みたいと思った理由は何か.それもまた分からない.そもそもトラムは走っていないし.なんというか,「波長が合ったから」としか説明のしようがない.



そんな波長の合ったベルンだが,唯一その波長を乱すノイズがあった.それが水である.

海外での腹痛に怯える自分は,海外旅行中には常に正露丸を飲んで,脂っこいものを避け,コーヒーも紅茶も飲むのをやめて,腹痛の種になりそうなものを徹底的に避けているのだが,同じように避けているものの一つに「硬水」がある.

硬水に慣れていない我ら日本人にとって,一般に硬水は腹痛の原因になり得るとされている.実際,過去に自分が硬水が原因の腹痛に遭遇したのかは分からない.水の硬度を気にし始めるようになったのは今年,スペインを訪れてからで,去年訪れた国で飲んだ水が果たして硬水だったのかも分からない.それでも軟水を選んで買うようになったスペイン滞在からは,腹痛に襲われていないような気がする.

確たる証拠のない「容疑者」の硬水だが,避けられるならば避けるに越したことはない,ということで,スーパーではボトルウォーターの成分表をくまなくチェックするという怪しげな外国人になっている.毎度買い物のたびに計算するので,計算式すら覚えてしまった.硬度はカルシウム濃度の2.5倍とマグネシウム濃度の4.1倍を足し合わせて,それが60未満だと良い.譲っても100未満.初めて行く国ではどれが軟水か分からないので,水を片っ端から手にとってこの計算をしている.

この旅でここまで通ったドイツとフランスは,ドイツではVioを,フランスではVolvicを好んで飲んだ.Volvicって昔日本でも当たり前に売ってたよね,いつの間にか無くなったけれど.では,ここスイスはどうなのか?



結論から言うと,スイスではVolvic以外に軟水は見つからなかった.じゃあVolvicを買えば良いじゃんと言いたいところだが,問題が一つだけあった.何故かスイス・ベルンでは「フレーバー付きVolvic」しか売っていなかった.「フレーバー付き」というのはつまり,日本で言うところの「いろはす・みかん」みたいなやつである.自分はこの「味のついた水」が大嫌いである.まず,糖類が含まれるのが気に食わない.虫歯になるし,口の中がベタつく.「水です」って顔をしているのも卑怯だと思う.堂々とオレンジジュースとタイマンを張ったらどうなのか,と.だいいち,海外では歯磨きやうがいにすらミネラルウォーターを使っているのだ.そんな水に糖を入れるなど,犯罪的行為としか言いようがない.

結局,普段は味付きのVolvicを飲んで,歯磨き用に何か良くわからないめちゃくちゃ硬度の高い水を買った.ただでさえ物価の高いスイスで,水を倍も買う羽目になっている.ああ,水道から軟水が当たり前に出てくる故郷が懐かしい.波長の合う街,ベルン.水の確保に苦しむことになるとは,流石に予想もできなかったなあ.