煌煌と輝く蛍光灯の下で眠る人間は、いつもは見ない夢を見るか? | The Express Train Heads North.
この日もロンドンをたくさん歩いた.とても疲れたし,立っていてもフラッと寝落ちしそうになるくらいに眠い.もうイギリス時間で過ごして1週間弱,さすがに時差ボケという感じでもないはずなのだが.
そもそも,朝起きた瞬間から既に眠い気がする.ベッドから這い出して眠い目をこすりホテル近くのカフェに行き,イングリッシュ・ブレックファスト・ティーを——ここはイギリスなので当然コーヒーではなくお茶を飲むのだ——煽る.効くぜカフェイン,滾るぜ心臓.それなりに目が覚めて元気になって意気揚々と街に繰り出す.午前中はそんな感じでまだ元気だ.でも午後になるともうダメで,とにかく眠くなってしまう.29歳児にはお昼寝の時間が必要らしい.
何故こんなに眠いんだろう,という原因については,ひとつ思い当たる節がある.
ここ最近,国内海外問わず旅行の時は部屋の電気を点けたまま寝ている.理由は単純で,トコジラミ対策である.ここ最近トコジラミ関連のニュースはあまり見かけなくなったが,少し前はちょっとしたブームか?というくらい頻繁にトコジラミが云々というニュース記事や動画を見かけた.やつらは荷物に紛れ込んで,自宅で大繁殖して我々を恐怖に陥れる.
とても恐ろしいのだが,やつらは部屋が明るいと活動しないらしい.日が沈めば出てきて活動し,日が昇れば休む.トコジラミはどうやら“鼓腹撃壌”の老人の逆であるらしい.よって私は部屋の照明を点けて眠る.月月火水木金金の哀れなトコジラミたちにせめてもの救いを.私の滞在中だけは日日土土日日土である.
夜中に煌煌と照明を点けることでトコジラミに安息の時間を与えているのだが,その照明下で眠る自分には微妙にダメージが入っている.具体的に言うとやけに目が疲れる気がする.そりゃ,目を閉じてるとは言え,部屋普通に明るいからね.自分を犠牲にして無視を助く.何という利他の精神だろうか.旅行中やけに疲れが取れないのはこれが原因に違いない.
そう言われれば,と芋づる式に思い出すのは,夢のことで.普段は全く夢を見ない……のか少なくとも見ても覚えていないのだが,旅行中はやたらと夢を見る.そしてその時に見る夢は,だいたい「それはないでしょ」と思うシュールよりの舞台設定の夢であることが多い.これも電気を点けっぱなしで寝ているのが原因だとすると腑に落ちる話だ.実は常時半覚醒みたいな睡眠をしているんじゃないのか?
ただ,夢の内容に「それはないでしょ」って言えるのは目が覚めた後で,夢を見ているときには何故かそれには気付けないんだよな.つくづく惜しい.夢を見ている時に気づくことができればそれは明晰夢で,もっと夢の中で自由に振る舞えるのだろう.空飛んだりとかできるらしいじゃないか.
旅行中の睡眠は自分の中で一番,明晰夢の実現に近づいているに違いない.たとえ疲れが取れずに時差ボケの身体に鞭打つことになろうと,そして朝起きた瞬間から目がしょぼしょぼになってしまったとしても,トコジラミ対策に加えて明晰夢チャレンジにもなるんだとしたら,それは比較的割に合うほうかもしれない.だから多分,アイマスクを着けるという単純極まりない対策すらせずに,これからも旅行中は煌煌と輝く蛍光灯の下で眠ると思う.