Tea | My Favorite Things
「トルコに何しに行くの?」と結構聞かれた.その度に答えに窮した.さて,自分は何でトルコに行きたいと思ったんだっけ.何かの折に「行きたい場所リスト」に入れたのだろう.そして「行きたい場所リスト」に入れた事実だけは覚えている.ただ,その理由を思い出せない.記憶力はいつも通りボロボロだ.
「何でですかね.まあ街歩きしたりとかじゃないですかね.」自分のことなのに,答えはいつも他人事だ.
あまりに「トルコに行く理由」を問われ続け,答えに困り続けたが故に,「本当に自分はトルコ行って何やるんだっけ」と不安になってきてしまった.ただ,実際のところ「街歩きしたり」だけでこの上なく楽しめる旅になった.それくらい,トルコには"my favorite things"が溢れていた.
"Chay, chay, chay, chay..."
グランドバザールを歩いていたら,そんな声が聞こえてきた.今,「チャイ」って言ったか?チャイってインドとかその辺じゃなかったっけか.振り返ると,持ち手の付いた銀の盆をおかもちの如く使いお茶を運んでいる人がいた.チャイというとインドのミルクティーを想起するが,トルコ語では一般にお茶のことをチャイと言うらしい.なんてことをGoogle検索していたら,また別の人が"Chay, chay, chay, chay..."と言いながら通り過ぎていった.
チャイチャイ言っているお兄さんの行く先を見ると,バザールのお店を渡り歩いて店員にチャイを提供するスタイルの商売らしい.そしてチャイを求める店員の数が異常に多い.さながら各駅停車の如く,店から店へ.盆の上のチャイはあっという間に売り切れになった.
そういえば,ホテルにチェックインする時にフロントのおじさんが「コーヒー飲む?」と声を掛けてきてくれて,コーヒーを一杯貰ったのだが,「トルコ人はコーヒーよりお茶を飲むんだよね」と言っていた.その時は「あれ?そうなの?トルココーヒーとか有名じゃない?」と思ったし,実際おじさんにもそう聞いたのだが,おじさんは「いや,お茶だね」の一点張りだった.
正直,聞いた時はあまり信用していなくて,おじさんがお茶派なだけなんじゃないの?と思ったのだが,これを見るとおじさんの言うことは本当だったらしい.バザール内のあちこちにチャイを飲む人がいた.おじさん疑ってごめんな.
チャイが溢れているのはバザールだけではなかった.街角の日常風景にもチャイが溶け込んでいる.仕事の合間にチャイを飲むのがトルコスタイルらしい.ついでにそこら中でタバコも吸っている.これもトルコスタイルなようだ.
浴びるようにコーヒーを飲んでいた過去も今は昔,実は最近の自分はコーヒーよりもお茶派である.理由は「イギリスかぶれだから」というしょうもないものなのだが,キングスイングリッシュっぽい発音を身につけるべくBBCのポッドキャストを聞き,リプトンの紅茶を煽る.とは言えトルコと言えばトルココーヒーだと思っていたので,街角にチャイが溢れているのは思いがけぬラッキーだった.下調べを全くしていないので,こんな仕方がないことでもいちいちサプライズだ.
食に関して辛うじて持っていた事前知識は「ケバブ」「キョフテ」「サバサンド」「トルココーヒー」「バクラヴァ」,以上.「バクラヴァ」は激甘のスイーツで,目論見としてはトルココーヒーとバクラヴァで一服しようと思っていたのだが,作戦変更してチャイとバクラヴァで茶をしばきに行った.
全くアテもなくフラツイて見つけた喫茶店にも当然のようにバクラヴァとチャイがメニューにあった.お茶を気軽に飲める環境はとても羨ましい.日本だと「超高級なところでちゃんとお茶を飲む」と「お茶頼んだらティーバッグが渡される」の両極端だ.特にテイクアウトで紅茶を頼むとお湯とティーバッグが渡されるのは非常に悲しい.そんなん家で出来るじゃん,って.いいなあ,お茶が当たり前に生活に根付いてる環境.
トルコではチャイは「チャイグラス」というグラスで飲む.真ん中がすぼんだ形をしていて,この形がまた可愛い.持つだけでテンションがあがる姿形をしている.調べたら「チューリップのような」という形容で表現する人が多いが,果たして言うほどチューリップだろうか.チューリップってこんなに真ん中すぼんでたっけ……?そういえば最近チューリップを見ていないので,パッとチューリップの形を思い出せない.
そんなことを考えながらチャイのお供に頼んだバクラヴァは本当にあり得ないくらい甘くて,あまりの甘さに夜までお腹が空かず,夕飯がバクラヴァになってしまったのは御愛嬌.
バクラヴァのお供に飲んだチャイはとても美味しかったので,その後も隙あらばチャイを飲んだ.お土産もお茶にした.そして空港の免税エリアは何故か価格がユーロ表記で,余ったトルコリラを使い果たすべく2パックお茶を買ったら,レート計算をミスってリラが足りなくなってしまい,ユーロで払った.日本に帰ってきた今,手元には微妙な額のトルコリラが残り,共感覚でバクラヴァの甘さを思い出させるチャイの香りが部屋に漂っている.
そうだ,せっかくだからチャイグラスも買ってくればよかった.またいつか,残ったトルコリラを握りしめて再訪したい.