Bluelight Sonata

2025-08-02

44,000歩 | Beyond the head wind

Beyond the head wind / camera α7CR / lens SEL24105G / location España
Toledo, Castilla-La Mancha, España

7日間のイベリア半島の放浪の果てに辿り着いたのは,古都・トレド.

「スペインに一日しかいられないのなら,迷わずトレドへ行け」と言う格言がある,とあらゆる旅行ガイドやブログが言っているのだが,調べてもその出所がはっきりしない.誰かが適当に思いつきでブログに書いたことが真に受けられて広まっただけなんじゃないか?という疑いが頭をもたげる.

他には,スペインで広く知られる格言に"Quien no ha visto Granada, no ha visto nada."というのがあり,「グラナダを見たことがない人は何も見ていないのと同じだ.」と言う意味である.だとするなら「スペインに一日しかいられないのなら,多少無理してでもグラナダに行け」が本当なんじゃないか.

1日しかいられないのならトレドに行くべきだが,7日間もイベリア半島にいた自分は本当はグラナダにも行くべきなのかもしれない.ただ,色々計画を整理したらグラナダに行くのは少し難しかったので,断腸の思いでグラナダは諦めた.格言によると自分は何も見ていないのと同じらしいが,それでもトレドには行く.

旅程としては翌日に帰国を控えた最終日.疲れも溜まってきたしのんびりと観光したい.そういう意味でもマドリードから電車で30分もあれば行けるトレドは丁度良い.



毎回,旅行の初日や2日目は何と言うか,心ここにあらずというか,いつもあたふたしている.海外旅行の回数は増えてきたが,それでも国によって違うことはあるし.改札機の通り方に迷い,バスの乗り方に迷い,スーパーマーケットの仕組みに迷う.スーパーマーケットなんて,見慣れない商品がたくさんあるので,店内をずっと行ったり来たりしているので,完全に不審者.

ただ7日目ともなると,少しずつその土地に慣れてくる.地元民に混じってスイスイ改札は抜けられるし,スーパーに至っては少し品揃えも把握してきている.CarrefourExpressに行けば朝ご飯用の菓子パン買えるな,MERCADONAいけば晩ごはんにちょうどいいお惣菜買えるな,みたいな.こうなってくると街を歩くのが楽しくなってくる.初日や2日目のようにキョロキョロビビりながら歩く必要がない.あ,自分もうここに住んでますくらいのツラをして歩くのである.

ただし副作用として,油断しすぎてマドリードからトレドの高速鉄道の切符を当日朝に買おうとしたら,全部満席になっていてバスで移動する羽目になった.鉄道でアクセスする前提でわざわざ駅近くのホテルに泊まったのに!少しはあたふたしているくらいのほうが旅行はスムーズに行くのかもしれない.



高速鉄道ショックで完全に予定が狂った.トレド駅ではなくバスターミナルに辿り着いて,展望台に行くためにタクシーに乗ろうと思ったら,バスターミナル前にタクシーが停まっていなかった.少し待てばタクシーが来るかもしれないが…….鉄道ではなくバスで来たせいで,すでに目論見の時間よりは少し遅れてしまっている.来るかもわからないタクシーを待つなら,歩くか.道のりは2.4km.徒歩37分.ギリギリ歩ける.日本なら普通に歩く距離だし.

そうして歩き出し,実際歩き通したのだが,一つ盲点があって.帰りのことを考えていなかった.どう考えてもタクシーで行って,サクッと写真撮る間タクシーには待っていてもらい,そしてタクシーで街に戻る.こういうムーブをするべきだった.2.4km,歩けるじゃん!と歩いてみたが,展望台でタクシーを捕まえられるはずもなく,往復4.8km歩く羽目になった.



4.8km歩いて街に戻るころには脚が重かった.旧市街は丘の上にあって,また坂道を登っていくのか……と気が重かったが,ありがたいことにエスカレーターがあった.Gracias, 文明の利器.

エスカレーターを抜けて旧市街に入ったら一気に雰囲気が変わった.スペイン国内ではコルドバ,セビージャ,カルモナとアンダルシア地方の街を巡ってきたが,そのどの街とも雰囲気が違う.眩しい白壁の街並みが印象的なアンダルシアとは対照的に,古都トレドの旧市街はベージュ基調の柔らかな雰囲気.

狭い道路を挟んで聳える建物と建物をつなぐ布が屋根のように広がる.少しアーケード街っぽい雰囲気.布が作り出す日陰で,4.8km強行軍でかいた汗が引いていく.



トレドの印象は,その街の色合いも相まってとにかく「穏やか」.トレド大聖堂と,聖堂へ伸びるコメルシオ通りは観光客が多いけど,通りから横に伸びる路地は人気が少なく落ち着いた雰囲気.こういう雰囲気のある路地が大好きなので,吸い込まれるように足が伸びる.

自分の旅行スタイルはとにかく「散歩」.博物館だの教会だの美術館だのにはあまり……というか殆ど興味がない.昔は「せっかく来たんだから王道の美術館行っておくか」みたいなことをやっていたのだが,全く面白くなかったので,最近はそういった観光スポットには見向きもしない.

歩く.とにかく歩くのである.



最近ずっとこの散歩スタイルで旅行をして,基本的にそれで満足しているのだが,「実はもっと雰囲気のある街並みを見逃したんじゃないか」みたいな疑念は常に付いて回る.基本的に街を歩き,「あ,あの道なんかありそう」と思った道に都度曲がっていくスタイル.どこに何があるかもわかっていないし,ここは必ず通ろうみたいな目論見もない.その場のフィーリングの積み重ねによる一期一会.

だから,「あの交差点,さっき左に曲がったけど,右に曲がったらもっと良い街並みがあったんじゃないか」ということは常に考える.考えていると同時に,どうしても気になって引き返してしまうこともある.でも引き換えしたら引き返したで「さっきの道をもっと先に進んでいたら……」という迷いも生まれる.だから引き換えした道を更に引き返し……という無限ループ.



海外旅行だとどうしても欲をかいて色々な街を回るけど,こういうスタイルなので本当は一つの街にもう少し腰を据えて滞在したいという思いがある.もうすこしゆったり散歩をしたい.「あっちは明日行けばいいや」みたいな.ただ「行きたい街」自体がありすぎるという問題もあって,現実には,中々そう上手くは行かない.

そんなこんなで路地を行ったり来たりした古都・トレド.冒頭の展望台の徒歩強行軍も合わせた歩数は驚愕の44,000歩.トレドに来る前後のマドリード市内での移動もあったとは言え…….「最終日.疲れも溜まってきたしのんびりと観光したい.」とは何だったのか,という感じだが旅行スタイルの都合上,こればかりはなかなか避けられそうにない.