Bluelight Sonata

2025-07-26

アンダルシアは夏で、春だった。 | Beyond the head wind

Beyond the head wind / camera α7CR / lens SEL24105G / location España
Carmona, Andalucía, España.

「5月のスペインは観光のベストシーズン.寒かった冬が終わり,気温は穏やかで過ごしやすいでしょう.朝晩は少し冷え込むこともありますが,日中は快適な気温です.」

そう言われていたのに,5月のアンダルシアは夏だった.



誰だよ「心地よい気温」とか言った奴は.あの記事のライター出てこい,とアンダルシア州で毒づいた.気温は普通に30℃近く.よく言われる「日本と違ってカラッと暑いから不快さは無いよ」などという言説は大嘘で,普通に汗をかきまくって辛い.日本では下手したら毛布を被って寝ているような季節で,身体が夏に順応していないままスペインに来たというのも原因だろうと思う.

照りつける太陽が肌を焼く.なるほどこんな日差しなら家の壁を白く塗って反射させて屋内を涼しくしようと思うのも納得.それくらい日差しが強い.問題は白壁が涼しくするのは屋内であって,反射された日光が拡散する外はより暑く,より眩しい.時差ボケで充血した眼に堪えるものがある.

経度は本初子午線の通るロンドンと同じか少し西に位置するスペインは,それでもイギリスと同じ西ヨーロッパ時間ではなく,遠くポーランドまで広がるGMT+1の中央ヨーロッパ時間に属する.そして季節は5月で,夏時間.結果的に,スペインの朝は思ったよりも暗いのだが,夜は全然暗くならない.暑すぎるアンダルシアを歩いて汗だくになった私はバテにバテ,少し暗くなって涼しくなるまでホテルで休憩しようとしたのだが,一向に暗くならなかった.なるほどシエスタのひとつもして時間を潰したくなるというものだ.

こうして汗だくでアンダルシアを歩きながら,白壁とシエスタの意義を身を以て体感した.



「ポルトガル・リスボンに行きたい」が起点の今回の旅は,欲張って「ついでにすぐ隣のアンダルシアの白い街も見たい」と思ってしまったが故に,当初思い描いていた旅程からは大きく変貌した.最初の目論見はリスボンから陸路でスペイン南西部のアンダルシアに行けるんじゃないの?というものだった.だが蓋を開けたらポルトガルとスペインの間は高速鉄道で繋がっていなくて,バスだとすごく時間がかかる.セビージャ空港行きの飛行機は高い.結果として「すぐ隣のアンダルシアに行く」はずが,リスボンからマドリードへ飛び,スペイン国内を高速鉄道で横断する羽目になった.「すぐ隣」とは何だったのか.

計画しながら何度も思った.「これ,アンダルシア諦めて他を廻ったほうが旅程としては美しいだろうな」って.でも一回思いついちゃったからね,「白い街も行けるじゃん」って.思いついてしまったものは仕方がない.ロンドンに行くはずがスコットランド・ハイランド地方までグレートブリテン島を縦断――しかも往復――することになった昨年のイギリス旅行と同じように.国を横断することになろうとも,それでも行くのである.そこに撮りたい被写体があるのなら.



そうして辿り着いた「白い街」のひとつであるカルモナは,だから着いたときは非常に達成感があった.ついに来たぞ!って感じ.ここが私のAnother sky,スペインはアンダルシア,カルモナです.とか呟きながら,眼を焼き尽くさんとする白壁の路地を歩いた.遠かったけど,ここまで来て良かった.照りつける日差しも,白壁の反射も,汗で張り付いたTシャツの不快感も吹き飛ばすほどの満足感.アンダルシアは夏で,暑かったけれど,そんなことも気にならなくなる高揚感.

ただし思わぬ伏兵がそれに水を差してくれた.鼻水である.


振り返ればリスボン最終日に何か鼻がムズムズして,ちょっと鼻水出るな,って感じだった.気にせずスペインに移動し,南に向かうに連れて一気に鼻水が止まらなくなった.予想外の鼻水大量生産に,日本から持っていったポケットティッシュを使い切ってしまい,コルドバのカルフールでポケットティッシュを買った.

翌日も全然鼻水は止まらなかった.これには非常にビビった.「やべえ,異国の地で風邪ひいちゃったんじゃね?」と.このまま更に悪化したら大変なことになるんじゃなかろうか.そう不安に思っていたら目の前に薬局が現れた.ああ神よ,救いはここにあったのです,とばかりに飛び込んで,風邪薬を買った.あれだけスペイン語を勉強したのに「風邪薬をください」というスペイン語は知らなかった."Quiero comprar 風邪薬"みたいなことを言えば通じるのだと思うが,「風邪薬」ってスペイン語でなんと言うのか全く分からない.結局ネットで調べた「風邪薬をください」in スペイン語を薬局のスタッフに見せて風邪薬を買った.薬局のおっちゃんは親切で"3 times a day!! 3 times!!"と何度も教えてくれた.……英語通じるやんけ.

風邪薬は信じられないくらい不味かった.あと信じられないくらいの眠気を誘った.



で,この謎の鼻水なのだが.振り返ってみると風邪ではなかった.確かに鼻水以外の症状は無いし,そして何より鼻水が出る量がおかしい.症状的には花粉症のそれで,帰国後「スペイン 花粉症」と調べたら彼の国ではオリーブ花粉に悩まされている人が多いらしい.特に南部アンダルシアは花粉飛散量が多いという.5月は花粉が多い季節でもあるとのこと.ドンピシャじゃん.

風邪ひいた!と思って無理せずホテルでゆっくりしていた時間とかもあるし,薬の眠気がすごかったし.花粉症とわかっていれば買う薬も変わっただろうし,もったいないことした!と少し後悔している.



結局5月のアンダルシアとは何だったのか.あれは確かに夏で,そして花粉の季節だった.日本の二重苦「夏の暑さ」と「春の花粉」が同時にやってくる世界観である.誰だよ5月は観光ベストシーズンとか言った奴は.

では行ったのは失敗だったか?と言われると全くそうは思わない.歩きたかった白い街を歩けて満足している.その白壁が反射する陽光に肌を焼かれようとも.どこを見ても白い壁が広がり露出オーバーな街を散歩するのは,薬の眠気も相まって夢の中にいるみたいだった.

アンダルシアの思い出は?と言われると,肌を焼く日差しとそれを反射する白い壁の街を,鼻水を垂らしながら,薬の副作用で眠気に引きずり込まれ,そして夢現に美しい白壁がどこまでも続く街を歩いた記憶.

件の旅行サイトはこのように書き換えたい.「5月のアンダルシアは夏.寒かった冬は終わり,春が来たと言いたいところですが,もう夏です.日中は暑くてバテます.ついでに花粉に苦しむことになるかもしれませんが,それでも美しい街並みを楽しむことができるでしょう」と.