日焼け止めも塗り忘れて、リスボンの街をトラムの線路に沿って歩いた日。 | Beyond the head wind

その日,リスボンは晴れだった.前日は午前が曇りで,昼過ぎにちょっと雨が降って,夕方は晴れだった.
出発前から色々な天気予報サイトを眺めていたのだが,海外の天気予報というのはどうも当てにならない.見るサイトが悪いのかもしれないが,サイトによって違うことを言う.「晴れと曇りでバラついている」なんてレベルではない.あるサイトはリスボンの快晴を予言しているのに,また別のサイトは大雨だとまで言う.
だから一体全体どのサイトを信じれば良いんだ?と思っていたのだが,前日のリスボンの目まぐるしく変わる天気を正確に当てた天気予報サイトが1つだけあったので,今後天気予報はこのサイトを信じることにした.そのサイト曰く,リスボンは本日晴天なれど,北に70km離れたオビドスは昼過ぎにかけて雨.オビドスには是非行きたいと思っていた……のだが,写真趣味的には雨が降るとわかっている街に敢えて行くのも,なんだかね.
そして,予定外のリスボン散策2日目が始まった.
問題は,元々リスボンでの持ち時間は1日のみ!と思っていたから,1日目に行きたいと思っていた場所はだいたい回りきってしまっているということで.1日目は曇天だから行かなかったサン・ジョルジェ城に行って旧市街を俯瞰して,国旗がはためくのにちょうど良い風が――こういうところにある国旗,撮る時に限って風が止んでしまうのは何故なんだ?――吹くのを待って.
それでも時刻はまだ10時半.アルファマ地区を歩いてまわろうにも,主目的のトラムの撮影場所は事前にGoogleマップでロケハンして,1日目に回りきってしまった.とりあえずスーパーマーケットに寄ってお菓子と生搾りオレンジジュースを買って,オレンジジュースを零して少しベタついた手を庇いながらビファナを買って,そのまま一旦ホテルに戻る.ビファナを食べてジュースを飲んでお菓子をつまんで……ふと気づく.
そういや,トラムを撮ってばかりで乗っていない.カメラメインの旅をしているとどうしてもこうなりがちだが,さすがにリスボンでトラムに乗らないわけには.アルファマ地区の狭い路地を走る12/28系統の始発,Martim Monizに向かってみたら観光客で長蛇の列が出来ていた.こうなってくると「トラムに乗るぞ」という熱意は急速に萎んでいく.月曜日だから空いているだろうと思ったのだが,これだから観光客は!

しかし,さすがに少しくらいトラムには乗っておきたい.でも長蛇の列には並びたくない.そこでCais Sodréまで行って,観光客に人気のない25系統に乗った.行く先のアテはない.そもそもこのトラムがどこにいくのかを知らない.観光客に人気がないのだから,特に見どころもないのかもしれない.でもそれで良い.乗ることに意味があるタイプのアトラクションだと思えば良い.
そうしたら何か,雰囲気の良い地区に辿り着いたから,トラムを降りた.

場所,不明.25系統でリスボン旧市街地から西に進んだどこか.何があるか.特に何も無い.多分普通の住宅街.地元の人からしたら「そんなところで写真撮ってどうなるの」って感じだと思う.
これから行く先にアテもない.ただせっかく何か雰囲気が良いところまで来たのだから,写真を撮りながら散歩をする.一応街のほうに戻る方向に歩く心づもりで,トラムの線路を辿りながら.

地図は見ていない.そこにトラムの線路があるから,これを辿っていけば街に帰れる自信があるから.疲れたらまたトラムに乗って帰っても良いし.線路のある乗り物はこれだから良いのだ.バスはパッと見でどこを走っているかわからないし,行きと帰りでルートが違ったりするし油断ならない.でも線路のある乗り物は,線路を辿っていけば駅はあるし,線路に沿ってしか走らないという安心感と信頼感がある.
写真を撮りながら歩き続けたら,西日が差す坂道に行き着いて,また日焼け止めを塗るのを忘れたと気づいて,その先には海……に見せかけて実は川が見えてきた.

そして冒頭の写真を撮った.昨日,事前にGoogleマップで調べまくって候補に挙げていた場所で撮ったどの写真よりも,適当に歩いて見つけたここで撮った写真のほうが気に入っている.あれだけ時間をかけてストリートビューでロケハンして,トラムが来るまで何分も待った場所よりも,たまたま乗ったトラムから気分で降りて,トラムの線路を辿って見つけた坂でちょうどよく走ってきたトラムを撮るほうが満足度が高い.
こういう偶然性があるから,旅先の無計画な徘徊はやめられない.今回に関しては,Martim Monizで大行列を作っていた観光客たちに感謝を.彼らがいなかったら,自分はこの場所に来ることはなかったと思う.